近年、会社の制度として資格や免許の取得を費用面で支援する会社が増えています。

これが完全な会社負担であれば問題はないのですが、もし、

「一定期間勤続せずに退職した場合には返金」

といった制度の場合には労働基準法16条に違反する可能性があり注意が必要です。

労働基準法16条とは

労働基準法16条は、労働契約の中で違約金や損害賠償金の支払いを予定する定めを禁止する規定です。

  • 遅刻を5回したら違約金として1万円を請求する

のような規定が分かりやすいと思います。

また、これだけでなく、研修や留学後に一定期間の継続勤務を義務づけることも禁止しています。

  • 会社が負担した資格取得費用は、1年以内に退職した場合、返還すること

このような規定も禁止されているのです。

資格や免許が専らその会社の業務でのみ必要な場合のみ適用

この労働基準法16条の継続勤務義務の禁止は、

  • その資格や免許が専らその会社の業務でのみ必要
  • 会社が命令して取得させた

この2つの要件に該当する場合にのみ適用されるという考えが一般的です。

このようなケースでは本来その費用は会社が負担すべきものであり、その費用の返還で従業員を縛るような行為を労働基準法16条では禁止しているのです。

汎用性のある自発的なスキルアップは問題なし

一方で、業務に関連するものの、個人のキャリアにおいてもメリットがあり、その取得が任意であるような資格や免許。

このような場合は、会社が貸し付けて、一定の場合には返却を免除するというような制度をつくることも問題ありません。

もしこのような制度をつくる場合には、ただ規定や内規に定めるだけでなく、当該従業員との間で一定期間継続勤務した場合には免除する特約付きの金銭消費貸借の個別合意を締結しておくべきです。

退職金から控除する場合には労使協定が必要

もし一定期間継続勤務せずに退職金から控除を行うのであれば、労働基準法24条の賃金全額払いの原則との関係を考える必要があります。

つまり、一定期間継続勤務しなかった場合に退職金から控除することを、あらかじめ賃金控除に関する労使協定で定めておく必要があります。

また、賃金控除に関する労使協定とは別に、賃金規定や退職金規定、就業規則などにもそのような控除を行い得る旨をあらかじめ定めておいた方が良いでしょう。

まとめ

以上、今回は資格・免許の取得支援制度で注意すべき点についてまとめました。

業務との結びつきが強い資格・免許の取得費用は本来会社が負担すべきものであり、一定期間継続勤務しなかった場合に返還を求めることは労働基準法16条に違反し無効と判断される可能性があります。

また汎用性のある自発的なスキルアップとなる資格・免許において、そういった制度をつくることは問題ありません。

しかし、労使協定や各種規定にきちんとした定めをすることが必要となるため、可能であれば専門家への相談をオススメします。