労働基準法においては、1日8時間、1週間40時間を超えて労働させた場合には割増賃金を支払う必要があると定められています。

簡単にいえば、残業した時間に対しては1.25倍の賃金を支払う必要があるということです。

ここで気になるのが、遅刻した日や有休を半日使った日に残業した場合です。

遅刻や半日有休により8時間働いていない場合でも、残業した時間に対しては1.25倍の賃金を支払う必要があるのでしょうか。

結論としては

1.25倍の賃金を支払う必要はない

のですが、就業規則や賃金規定の記載内容によっては支払う必要が生じることもあるので、今回紹介いたします。

労働基準法は実労働時間主義

労働時間の考え方には、

  • 所定労働時間主義
  • 実労働時間主義

の2つの考え方があります。

所定労働時間主義では、定められた8時間の所定労働時間を超えた場合に割増賃金が発生します。

一方の実労働時間主義では、実際の労働時間が8時間を超えた場合に割増賃金が発生します。

そして労働基準法の労働時間規制においては実労働時間主義がとられており、実際に割増賃金の支払い義務もこの実労働時間主義によって考えられています。

したがって、その日、その週において実際の労働時間が8時間や40時間をを超えない限り、労働基準法上の時間外労働に対する割増賃金の支払い義務は生じません。

つまり、遅刻や半日有休により8時間働いていない場合には、残業した時間に対して1.25倍の賃金を支払う必要はないということです。

もちろん、1時間遅刻した日に2時間残業した場合は、1時間については1.25倍の賃金を支払う必要があります。

所定労働時間主義の就業規則が多い

上記のような実労働時間主義は、あくまで労働基準法における考え方です。

もしこれとは別に、就業規則や賃金規定、労働契約において労働基準法を上回るような定めがある場合は、その規定が優先されることになります。

実際に会社で運用されている就業規則等では、実労働時間主義ではなく、終業時刻以後の労働については割増賃金が支払われるという所定労働時間主義のような規定となっているものが多く見られます。

この場合、労働者としては所定労働時間主義の方が金銭的に上回るため、所定労働時間主義が優先されます。

所定労働時間主義の規定の真の意図は不明

このような所定労働時間主義の記載内容としている規定について、真の意図がどうなのかは分かりません。

あえて終業時刻以後の労働に対しては割増賃金を支払い、労働者を優遇しているのか。

それとも、実労働時間主義を意図しているものの、適当な記載方法がわからず結果として所定労働時間主義のような記載内容となってしまったのか。

真の意図がどちらにしろ、規定において就業時刻以後の労働について割増賃金を支払うと定めているのであれば、基本的には割増賃金が支払われる必要があります。

もし当事者の意図がそうでないのであれば、実労働時間主義によって割増賃金が支払われるものであることを明記して誤解の生じないようにする必要があるでしょう。

有休を取得した場合の考え方

以上の考えは、遅刻した場合だけでなく半日有休を取得した場合についても当てはまります。

そして、1日有休を取得した場合の週40時間の考え方についても当てはまります。

つまり、有休を1日取得した週の別日に残業をした場合も、労働基準法における割増賃金の支払い義務は、あくまでその週の実労働時間が40時間を超えた場合に生じるということです。

ちなみに、有休を取得したその日の賃金について通常の賃金を支払うこととしている場合、その日は通常の労働をしたものとして扱えば足りるとされています。

しかしこれはあくまで、その日の有休取得により勤務しなかった部分の賃金の扱いについての考え方を述べたものであり、割増賃金の支払いに関する労働時間のカウントについてはまた別で、前述のとおりに考えることで問題ありません。

まとめ

以上、今回は、遅刻や半日有休を取得した日に残業した場合の残業代について紹介しました。

労働基準法においては実労働時間主義の考え方を採用しており、実際に労働時間した時間が8時間や40時間を超えない限り割増賃金を支払う必要はありません。

しかし就業規則や賃金規定、労働契約において終業時刻を過ぎた労働に対しては割増賃金を支払うような定めをしていた場合、労働者に有利な内容が採用され、割増賃金を支払う必要が生じることとなってしまいます。

そのため、もし実労働時間主義を意図しているのであれば、その意図を反映するような記載内容となるよう注意が必要です。