ちょっとした会社と従業員との間の金銭のやり取りに、給与天引きを利用する会社もあると思います。
しかし実は、給与天引きは原則として禁止されており、一部を除いて違法となる可能性が高くなります。
それを知らず給与天引きを利用している会社も多いため、今回は給与天引きについてまとめます。
給与天引きは労働基準法で禁止されている
労働基準法では賃金支払の五原則を定めており、
- 通貨で
- 直接労働者に
- 全額を
- 毎月1回以上
- 一定の期日を定めて
支払う必要があります。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
この3つめの全額払いの原則については、ただし書きで
- 法令に別段の定めがある場合
- 労使協定がある場合
こういった場合には、賃金の一部を給与天引きして支払うことができるとされています。
これだけだと分かりにくいので、もう少し具体的にみていきます。
給与天引きが認められる具体例
給与天引きが認められる具体例としては以下の4つがあります。
- 所得税や住民税の源泉徴収
- 健康保険や厚生年金、雇用保険などの社会保険料
- 財形貯蓄
- 労使協定
所得税や住民税の源泉徴収
所得税や住民税の源泉徴収については、所得税法や地方税法などの法令により定められているため、給与天引きが認められています。
健康保険や厚生年金、雇用保険などの社会保険料
健康保険や厚生年金、雇用保険などの社会保険料も、健康保険法や厚生年金保険法、雇用保険法などの法令により定められているため給与天引きが認められています。
なおこれらの社会保険料は会社と従業員がともに負担する仕組みのため、従業員分の社会保険料を会社が徴収した後に、会社負担分とあわせて納付することになります。
財形貯蓄
財形貯蓄制度については知らない方も多いかもしれませんが、税制上の優遇を受けながら貯蓄することが可能な制度です。
貯蓄にまわすお金を給与天引きすることが多いのですが、財形貯蓄にまわすお金を給与天引きにより控除することは法令では認められていません。
そこで、財形貯蓄による賃金控除について労使協定を締結することで給与天引きが可能となります。
労使協定
法令により認められていない場合には、財形貯蓄のように労使協定を結ぶことで給与天引きが可能となります。
ただし気を付けなくてはいけないのが、労使協定を結ぶだけでなく給与天引きの根拠をきちんと就業規則等に規定する必要があります。
また、労使協定と就業規則に規定があれば何でも給与天引きできるというわけではありません。
行政解釈によれば、
- 購買代金
- 社宅・寮などの福利厚生施設の費用
- 労務用物資の代金
- 労働組合の組合費
などの用途や目的が明確なものに限り給与天引きが可能とされています。
労働基準法に規定がなくても可能な給与天引き
上記はすべて、労働基準法の規定にてらして給与天引きが可能な例です。
しかし他にも、給与天引きが可能となるケースがあります。ハードルはかなり上がりますが。
調整的給与天引き
給与などを払い過ぎた場合に、翌月に給与天引きで調整するようなケースについては一定の条件において認められています。
一定の条件というのは、
- 相殺の時期
- 方法
- 金額
などを考慮して、労働者の生活の安全を害さない場合に限り給与天引きが可能というものです。
労働者の合意に基づく給与天引き
これが一番シンプルだと思いますが、労働者の合意があれば給与天引きをすることも可能です。
しかしシンプルなぶん、有効と認められるための条件はかなり高いです。
というのも、労働者の合意が、
労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在することが必要
とされているからです。
ようは、会社の無理やり合意させたものであってはいけないということです。
これが思っているより難しいんですね。
合意に関する書類を署名押印して残しておく方法が良いかと思いますが、それでも無理やり署名押印させられたと言われると覆すのは難しいです。
ですので、たとえ労働者の合意があったとしても、金額の大きな給与天引きは労働基準法で認められている方法以外の方法では行わない方が良いでしょう。
まとめ
以上、今回は給与天引きについてまとめました。
原則として給与天引きは禁止されているということを知らず、安易に給与天引きを利用している会社も多いです。
それが労働基準法で認められているようなケースであれば良いのですが、そうでなければ違法の可能性も高いので注意が必要です。
また、労働者の合意があれば何でも許されるわけではありません。
それなりのリスクがあると知ったうえで、給与天引きにするのか、それ以外の方法にするのか検討していただければと思います。