コロナ禍以降、従業員に在宅勤務を推奨する会社が増えています。
在宅勤務の推奨にあわせて従業員のPC購入や通信費を補助するために「在宅勤務手当」を支給する会社も多いです。
ではこの「在宅勤務手当」は社会保険上どのように取り扱われ、算定基礎には含まれるのかについて紹介します。
社会保険料の「報酬」の考え方
社会保険料は、会社から支給される「報酬」をもとに保険料が決定されます。
その算定基礎となる「報酬」については、健康保険法3条5項により以下の通り定められています。
健康保険法3条5項
この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。
その一方で、本来であれば会社が負担すべきものを従業員が立て替え、その実費弁償を受けるような場合には労働の対償とは認められないため、「報酬」には該当しません。
在宅勤務手当は「報酬」にあたるのか
では、今回のテーマである「在宅勤務手当」は「報酬」に該当するのでしょうか。
「報酬」に該当するのであれば社会保険料の算定基礎に含める必要がありますし、該当しないのであれば含める必要はありません。
これに関しては他の手当も同様ですが、その手当の名称だけで一律の取扱いをすることはできず、支給要件や支給実態を踏まえて判断する必要があります。
「在宅勤務手当」が実費弁償にあたるかどうか
「在宅勤務手当」の場合、基本的にはそれが実費弁償にあたるかどうかで「報酬」に該当するかを判断します。
「在宅勤務手当」が実費弁償にあたるケース
例えば、会社が支給した「在宅勤務手当」について、従業員が在宅勤務に必要な費用として使用しなかった場合には会社に返還する必要があるのであれば、それは実費弁償にあたるとして「報酬」には該当せず、算定基礎にも含める必要がありません。
また、テレワーク終了後や退職後に、「在宅勤務手当」で購入したパソコンなどの事務用品を会社に返却する場合には、これは実費弁償にあたるものと考えられます。
「在宅勤務手当」が実費弁償にあたらないケース
一方で、会社が支給した「在宅勤務手当」を従業員が使用しなかった場合でも会社に返還する必要がないのであれば、それは労働の対償として「報酬」に該当すると考えられ、算定基礎に含める必要があります。
また、「在宅勤務手当」で購入したパソコンなどの事務用品を会社に返却する必要がないのであれば、これは実費弁償にあたらないと考えられます。
光熱費の補助
よくあるケースとして、自宅で仕事をするようになると光熱費が上がるため、その補助を目的として「在宅勤務手当」を支給することがあります。
この場合にも、全員に一律の金額を支給しているのであれば実費弁償にはあたらず、「報酬」に該当すると考えられます。
通信費についての判断
通信費については、一般的な家庭においては定額制のインターネット回線を利用しているため、通信費の私用と業務用の区分は難しいです。
この点、通信費における私用と業務用の区分について、特に定められた取り決めや計算式はありません。
会社内で定められたルールに基づいてきちんと精算していれば、実費弁償しているものとして「報酬」に含めない、との年金事務所の回答もあります。
会社内のルールについては、「在宅勤務手当」に関する所得税上の取扱いが国税庁から出ていますので、この取り扱いを参考にしつつ対応していただければと思います。
>>在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)
年金事務所より是正を求められるケースも
最後になりますが、最近は年金事務所の立入調査により、手当が「報酬」に該当するにもかかわらず、社会保険料の算定基礎に含まれていないことが発覚するケースが増えています。
発覚した場合には遡及して是正求められることもありますので、制度設計の段階から注意していただければと思います。