会社は36協定を締結し労働基準監督署に届出をすることで、労働者に時間外労働や休日労働をさせることが可能になります。
そして36協定の中には、時間外労働・休日労働をさせる労働者数を記載する必要があります。
では36協定の締結後に入退社があり労働者数に変更があった場合、改めて36協定を再締結しないと時間外労働・休日労働をさせることは出来なくなってしまうのでしょうか。
また、もし36協定の労働者代表として署名した方が退職した場合、その36協定の有効性はどうなるのでしょうか。
あまり無いケースかもしれませんが、実際にあったときには気になることだと思いますので、今回紹介いたします。
労働者数の増減に関する規定も行政解釈もない
実は労働者数が増減した場合の対応について、法令に記載もなければ行政解釈も出ていません。
ですので、正確には「わからない」というのが正しいです。
しかし逆にいえば、労働者数を100人と記載していたところ、人員増で150人となった場合に150人全員を時間外労働させることが出来るという根拠もないことになります。
厚生労働省の労働基準法コンメンタール
これについて厚生労働省の労働基準法コンメンタールでは、
刑事上の免責的効力が及ぶ人的適用範囲は、当該事業場の全労働者についてである。ただし、協定において、適用を受ける職種、人員を制限した場合は、その範囲内に限られることはもちろんである。
協定締結後、若干の労働者数の変動があったとしても、特段の事情が無い限り、当該協定によって時間外労働させることができると解して差し支えない。ただし、協定締結当時予測できないような状況の変化があった場合には、改めて協定を締結しなおす必要も生じてこよう。
としています。
これを読む限り、協定締結当事者の意思が、在籍者全員を対象に時間外労働や休日労働を可能にする主旨で締結したものであるならば、その後の人数の増減にかかわらず当該事業場の全労働者について協定の効力が及ぶと考えるのが基本となります。
ただし時間外労働や休日労働をさせることのできる労働者を絞り込んで協定したことが明らかな場合はその範囲内限られてくるということになります。
であれば、特に人数を限定する意図がないのであれば、労働者数の記載にあわせて、これが協定締結時点の在籍者数であり、労働可能とする人数は事業場の労働者全員であることを明記しても良いかもしれません。
労働者代表が退職した場合
次に、36協定の労働者代表として署名した方が退職した場合の、36協定の有効性についてです。
先に結論ですが、たとえ労働者代表が退職しても、36協定の有効性には何も影響を与えません。
36協定の労働者代表等の要件はあくまで協定成立の要件であり、その後の効力存続の要件とはされていないからです。
たとえば退職以外でも、協定成立後に労働者代表への支持が失われることは起こりえます。
しかし会社としてはそのことを知るすべはなく、そのことをもって36協定の効力が左右されてしまうのは非常に問題です。
もし労働者代表が退職した場合には36協定を締結しなおすべきという考えもあるようですが、実務上は、36協定の効力には何も影響がないと考えてもらって問題ありません。
まとめ
以上、今回は、労働者数が増減したときや労働者代表が退職したときの36協定の有効性について紹介しました。
36協定に関しては、締結時に必要な要件を満たしていれば、その後は基本的には締結し直しなどは必要ありません。
しかし労働者数が大きく増えたときのために、念のため、労働者数の記載にあわせて、労働可能とする人数は事業場の労働者全員であることを明記しても良いかもしれません。