近年、職場でボイスレコーダー等を用いて会話を録音する従業員が増えています。
実際に労働審判や訴訟などにおいて、職場の録音が証拠として提出されるケースは増えています。
もちろん職場でのパワハラや不当解雇などが疑われる場合には、従業員が自身の身を守るために会話を録音するというのは理解できます。
しかし、ときには度を超すケースもあるのではいでしょうか。
パワハラ等と関係のない職場の同僚も、会話が録音されているのではないかと不安になりますし、職場の雰囲気が悪化することも考えられます。
また、職場の会話には企業秘密の含まれている可能性が高いことから、会社として無断で会話が録音されている状況を見過ごすことはできないでしょう。
そこで今回の記事では、職場の会話を録音する従業員への対応について紹介します。
職場での録音を禁止することはできるのか
そもそも職場での録音を禁止できるのかという点ですが、使用者には労働契約上の指揮命令権および施設管理権があります。
これらの権利に基づき、従業員に対して職場での録音を禁止することが可能です。
一方で、いくら権利があったとしても、その権利を無制限に行使できるわけではありません。
例えば一人で黙々と業務を行う従業員がボイスレコーダーで録音していたとしても、それだけでは誰にも迷惑は掛けていませんので、録音を禁止できないでしょう。
就業規則の「服務規律」に録音行為を定め、これに違反して「懲戒処分」を課す場合でも、その行為が企業秩序を乱していなければ適用できないのです。
誰にも迷惑をかけず業務の支障にもなっていないのに、重すぎる処分を受けた場合は不当処分として無効になります。
録音禁止命令の裁判例
上記の通り、録音禁止の命令とそれに続く懲戒処分には争いとなる要素があります。
そういったケースでは、過去の裁判例を知っておくことが役立ちます。
(1)T&Dリース事件(大阪地判平21.2.26)
この事件は、うつ病で休職した従業員が、復職後ボイスレコーダーやビデオカメラを職場に持ち込んだ事案です。
上司から何度も録音・撮影禁止の注意を受けているにもかかわらず無視してこれを繰り返し、また、従業員の健康状態に配慮して策定された復職の方針に基づく業務指示にも従わなかったため解雇されました。
この事案で裁判所は、解雇権の濫用とは認められないとしています。
(2)甲社事件(東京地立川支判平30.3.28)
この事件は、自分の身を守るためとして常にボイスレコーダーを所持し、注意されても録音を止めなかった事案です。
2度の弁明の機会においても「自分の身を守るため録音は自分のタイミングで行う」と主張し続け、けん責の懲戒処分を受けても何ら反省の意思を示すことがなかったため普通解雇されました。
この事案で裁判所は、会社は労働契約上の指揮命令権および施設管理権に基づき、当該従業員に対して職場施設内での録音を禁止する権限があるとし、最終的に解雇権の濫用とは認められないとしています。
またこの事案では、就業規則に従業員の録音を禁止するとは明記されていませんでした。それでも職場施設内での録音を禁止する権限があるとされた点で参考になる事案です。
まとめ
以上、今回は職場の会話を録音する従業員への対応について紹介しました。
労使間トラブルだけでなく従業員同士でのトラブルにつながる可能性を考えると、就業規則の服務規律に録音を禁止する旨は明記しておいた方が良いです。
特に薬局やドラッグストアの場合、会話には企業秘密だけでなく患者の個人情報も含まれてくるため、会話の録音は非常に危険です。
そのうえで、そもそも従業員が録音をする必要がないような職場作りを目指していきましょう。